京都で和のおもてなしを堪能。

昨年から、マンションに茶室を作るリノベーション、和食割烹のお店の改装など、和のおもてなしの空間を依頼されることが重なっています。ここ10年来毎年ヨーロッパのインテリア展示会で海外デザインを見ている私は、逆に日本文化の素晴らしさに目覚め始めていたところ。
それではと、本場京都のおもてなしを堪能しにまいりました。

どこに行こうか、まず思いついたのは『和久傳』。こちらのレンコンの和菓子は昔から馴染みがあり、丸の内の和久傳カフェの本格的な和室内装にも惹かれていたので、ぜひ一度京都のお店へ行ってみたいと思っていました。中でも今回選んだのはカウンターでお食事する『室町和久傳』。日本の木を使ったリノベなどを手がけている私としては、カウンター材は何を使っているのだろうなどと考えるだけでも胸が躍りました。

入り口の脇にひっそりとかけられた馴染み深い文字。柔らかく女性的なエレガンスを感じます。

京都の町屋の格子は様々なデザインがありますが、和久傳の格子は斬新でした。屋根瓦と格子、入り口は、中のインテリアがどのようになっているのか、どのようにもてなしてくれるのか期待感を膨らませてくれる大切な場です。東京のマンションエントランスはとかく大きく広く作られているところが多いのですが、期待感を膨らませる演出という点では、何も新しくて広いだけがいいとも言えないなあと思いました。
ひっそりとしてそれでいてワクワクと胸が高まるエントランスを、ビンテージマンションの入り口としてリノベーションしてみたいと、ふと思いました。

外観。1階に見えるのはカフェ。2階が食事の店。写真は分かりやすく明るくしてあるが、実際はもう少し暗くひっそりしている。

細い廊下を通り一旦奥まで通されます。そこには階段があり、2階へ登ってまた細い廊下を歩くと、やっと広間がひらけました。
真ん中に調理用の炭火があり、その周りをぐるっと取り囲むように長いカウンターが配置されていました。

炭火を囲むようにコの字型に配置されたカウンター。器はほぼ京焼きを使用している。この日のお猪口は唐子の描かれたもの。

カウンターの樹種をお店の人に尋ねたところ、即座に「栗」という答えが返ってきました。やはり、お客様にカウンターの木について聞かれることが多いのでしょうね。和食カウンターによく使われるヒノキや杉といった針葉樹もお料理を際立たせてくれますが、はっきりとした木目の栗はより生命力を感じます。

実は私の家の床にも栗材を使っています。昔懐かしい栗の木目は、年月が経つにつれ、少し黄みを帯びて、エネルギーに満ちた深い木目に変わっていきます。

左はマグロのお刺身。右は焼餅の中になんとカラスミが入っています。これは大変珍しく美味しくいただきました。

野菜はほとんど丹後の畑で採れたものだそうです。中には、店の料理人の方々で栽培したものもあるそうです。「理由はわかりませんが、料理する皆が実際に畑で野菜を収穫することで、同じ料理でも美味しさが違うのです。」とお酒をつぎながら話してくれました。
私が森に行き木を見たいと思う気持ちもこういうことなのかもしれないと感じました。

カウンターの中の方々は自信に満ちた目で、自分の言葉で話してくれます。美味しいお料理を提供することはもちろんのこと、上質なインテリア、自信に満ちて気配りのある会話など、ここで過ごす時間が満足できるものになるために、全てにおいて丁寧に考えられている、、、。
インテリアデザインもまさにこうしたことが求められていると感じました。

ローズウッドのアンティークデスク。この日は2月2日。節分の豆が添えられている。

和の空間の片隅にひっそり置かれたデスクは、なんとアンティークのローズウッド。もしやブラジリアンローズウッドでは?ワシントン条約でもはや取引できないブラジリアンローズウッドだとしたら、大変貴重な家具です。長く経年変化した木目は力強く流れるような美しさでした。

また、庭に面した窓の木製枠のなんと細く繊細なこと。
そしてそれらを引き立たせるのは照明。余分な明るさは避けて、適切な場所を照らすように、あとは影を作って立体的な空間に仕上げています。塗り壁や天然木に当てられた光は優しく人の目に届き、柔らかく上質な空間を作り上げます。話す声もゆっくり小さくなるのは、このためです。

決して奇をてらわない、細部にまで心が行き届いた空間は、日本独自のおもてなしの表現であると感じました。

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